「あちら側」の人

子どもの頃、親に海水浴に連れてこられると、いつもそこには「あちら側」の人がいた。 小学生の僕と同じくらいの年齢のよく陽に灼けた少年が、野球帽をかぶって、すこし大きめのママチャリにまたがって、つまらなそうな顔をしながら、海水浴客で賑わうビーチ…

孤独の場所

引っ越しをして、家が倍くらいの大きさになった。 快適な住環境を手に入れたのになんだか落ちつかないのは、まだ新しい家に慣れていないせいかと思ったが、どうやらそうではなくて、”独りの場所” がないのだ、ということに気がついた。 朝海辺をさんぽすると…

僕らはとっくに限りなく自由だ、と。

家から歩いて三分で海に出る。 その日の気分で、さんぽ道を決める。 西の砂丘に咲く花が眩しければそちらへ向かい、東の空に登ったお日様から天使のはしごが降りていればそこを目指す。さらさらと流れる海風と心地よい波音を浴びていると、僕は、限りなく自…

波の音しか聞こえない。

僕の朝は暗い。 朝が弱いとか苦手だとかいうんじゃなくて、なにやら漠然とした不安に包まれてどんよりとしている朝が多いのだ。 そういう朝は(そういう朝じゃなくてもだけど)、歩いて海へ出る。海っていうのは毎朝眺めても飽きないくらいに、いつも違った…